【経営に活かす労働判例】管理監督者の高いハードル|労働法専門弁護士の裁判解説

記事を手に取っていただきありがとうございます!

この記事では、従業員が「管理監督者かどうか」について争われた裁判例を解説しています。

管理監督者に該当すれば、割増賃金(法律上の残業代のこと)の支払いが不要になるため、残業代を請求する裁判では、会社側から「その従業員は管理監督者だった」という主張がされることがあります。
しかし、その主張はなかなか認められないといわれます。
つまり、「会社の中で管理職にしていたから残業代はいらないだろう」となんとなく考えているだけでは、後になって(大体はその従業員が辞めた後)多額の残業代を支払うことになってしまう可能性が高いということです。

では、具体的にはいったいどのようなポイントに注意しなければならないのでしょうか?
紹介する裁判例をもとに考えてみましょう。
東京高裁の平成17年3月30日判決です。
※ここから先はできるだけ正確に書くために「である調」にしています。苦手な方ごめんなさい。
※判断のポイントから読んでいただいても意味があるかと思います。

目次

事案の概要・判旨

事案の概要(どんな事件だったか)

 Y1は、専門学校M音楽院を個人経営しており、XらはもとM音楽院の従業員として雇用されていた。その後、Y1は学校法人Y2の理事長となり、Y2は自身が理事長に就任した後、Y2にM2音楽院を設置してM音楽院からヴォーカル科を移設した。それに伴い、XらM音楽院の事業部の従業員がY2に転籍された。

 平成13年4月、Y1はX1とX2に対し、同月分以降のM音楽院の従業員の給与体系の変更を告げ、それに基づきXらに対して給与と割増賃金の支払いをした。

 Xらは、未払いの割増賃金がある等と主張し提訴。これに対しY1は、Xらが労基法41条2号所定の管理監督者に該当するとし、同人らに対して支払った割増賃金は不当利得に該当すると主張してその返還を反訴として請求。

※裁判例の解説をするとき、訴えた人(原告)をX、訴えられた人(被告)をYと表現します。それぞれ複数いるときにはX・Yの後ろに番号をつけます。まとめるときには「Xら」・「Yら」と表現します。

判旨(裁判所はどんな判断をしたか)

【結論】
 Xらの割増賃金請求が一部認められた(管理監督者ではないとされた)

【理由】(※次に出てくる「法」というのは労働基準法のこと)
「法1条の原則にかんがみれば、法41条2号の規定に該当する者(管理監督者)が時間外手当支給の対象外とされるのは、その者が、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、そのゆえに賃金等の待遇及びその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられている限り、厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないという趣旨に出たものと解される。……したがって、Xら3名が管理監督者に該当するといえるためには、その役職の名称だけでなく、同Xらが、実質的に以上のような法の趣旨が充足されるような立場にあると認められるものでなければならない。」

 出退勤管理については、Xらは、いずれもタイムカードにより出退勤が管理され、出勤時間は他の従業員と同様であった。また、平成13年3月分までは時間外労働等の実績に応じた割増賃金の支払を受けていた。

 Xらの職務内容や権限については、X2は、M音楽院の教務部の従業員の採用の際の面接等の人選や講師の雇用の際の人選に関与し、教務部の従業員の人事考課および講師の人事評価を行ってY1に報告していた。X1は、事業部の従業員の採用の際に面接等を行い、その人選に関与し、また、経理支出についても関与していた。しかし、X2が、Y1の指示や承諾を得ることなく、X2の裁量で教務部にかかわる業務を行っていた事実はなく、そのような大きな権限がX2に付与されていた事実もなかった。またX1が、経理にかかわる権限を一手に掌握し、Y1の指示や承諾を得ることなく、多額の出費をX1の判断で行っていた事実もなかった。

 そうすると、「X2及びX1が、経営者であるY1と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務上の権限をY1から実質的に付与されていたものと認めることは困難である……。」

 Xらの待遇については、それぞれ役職手当の支給を受けてはいたものの、「上記の勤務態様にかんがみ、かかる基本給と役職手当の支給だけで厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護にかけるところがないといえるほどの優遇措置が講じられていると認めることは困難である……。」

 以上のように述べて、Xらの管理監督者性を否定した。

判断のポイント

管理監督者と認められるための条件

①経営者と一体の立場
 →重要な職務と権限

②出退勤の管理
 →労働時間について裁量権を有していること

③賃金等の優遇
 →その地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の待遇を与えられていること

基本的に全部クリアすることが必要

それぞれの条件についての判断

①経営者と一体の立場
 条件をクリアする方向の事情(会社に有利な事情)
 ・教務部の従業員の採用に関与
 ・教務部の従業員の人事考課の実施
 ・経理(支出)への関与
 条件クリアを妨げる方向の事情(会社に不利な事情)
 ・実際には、経営者(Y1)の指示や承諾なしに教務部にかかわる業務を行っていたわけではない
 ・規程上も、大きな権限が付与されていたわけではない
 ・経理にかかわる権限を掌握していたわけではない
 ・経営者(Y1)の指示や承諾を得ることなく多額の出費を個人(X1)の判断で行っていたわけではない

→重要な職務上の権限が従業員にあったとはいえない

②出退勤の管理
 条件クリアを妨げる方向の事情
 ・タイムカードにより出退勤が管理され、出勤時間は他の従業員と同様
 ・過去、割増賃金の支払を受けていた時期がある

③賃金等の優遇
 ・役職手当の支給を受けてはいたが、十分ではない

経営に活かす

管理監督者と認定されることのメリット

経営にはコストベネフィットの見極め(損得勘定)が不可欠であり、人事労務においても同じであろう。
そこで、まず、管理監督者と認定されることにより得られる経営上のメリットを説明する。
このメリットが、後で説明するコストを上回ると判断するならば、管理監督者という制度を人事戦略上活用するスタートラインに立つということになる。

管理監督者とは、労働基準法41条2号に定められている、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」のことである。
これに該当すると、労働基準法が定めている、「労働時間、休憩及び休日に関する規定」が適用されなくなる(管理監督者と認められることの効果)。
つまり、労働基準法的には、1日・1週間(あるいは1か月や1年も)に何時間働かせても構わないし、1日の中に休憩を設ける必要も、1週間に1日の休日を設ける必要もなくなる。

結果として、割増賃金を支払う必要もなくなる

経営上のメリットは、会社の労務管理の対象から基本的に外れ、割増賃金も不要なため賃金を定額化することができる点にある。
この点だけを見れば、細かな指示を出すことに向いておらず、成果で賃金を設定する必要性の高い職務に就く従業員(専門職、管理職、企画職など)に向いている制度といえる。
クリエイティブな職務や部下・部署の管理などは、臨機応変な対応が求められるものであり、業務量も非定型である。

そのような職務には、職務の重要性にふさわしい高待遇を用意し、あとは実際に従事する従業員の能力を信頼して任せて、成果を求めるという会社の姿勢がマッチする。

このような職務とそれを遂行できる人材は、経営環境の変化が激しい現代において、ますます重要なものとなる。

管理監督者導入のコスト

しかし、管理監督者の規定をこのように活用することは大きなコストと隣り合わせである。

管理監督者と認められるためのハードルが異常に高いためである。

管理監督者と認められるための条件は、行政解釈上次の3つとされており、また、裁判所も概ねこれに近い理解をしている(この記事で取り上げた裁判例も大筋では同様)。

管理監督者の条件

①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること

②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること

③一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の待遇を与えられていること

まず、①によって、いかに高度な専門的業務を行なっていても、経営にタッチしていたり、採用や部下の出退勤管理などに関わっていない者は管理監督者には該当しない。
また、「経営に関する決定」の内容としては、主に「全社的なもの」が想定されており、規模の小さな部署やチームを率いているだけではなかなか認められない。
そうすると、会社全体の規模が小さい場合(中小零細企業)には、①をクリアする従業員はほぼ存在しないように思われる(全社の経営に関わっているのは役員であることが多い)。

②は①に比べればクリアできる可能性は高い。
出社時刻や退勤時刻、そもそもいつ出勤するか(出社日)を従業員が自分で決められるようになっていれば構わない。
出社時刻や退勤時刻をタイムカードを使って会社が把握することも構わない(むしろ、労働安全衛生法上は、健康管理のために把握することが義務づけられている)。
ただし、この記事で取り上げた裁判例のように、出社時刻などが一般従業員と同じように決められている場合は②をクリアしたとは認められないことが多い。

また、見た目上自分で決められるようになっていたとしても、遅刻による給与控除があったり、遅刻を理由に懲戒処分が行われるような場合には、やはり②をクリアしているとは認められない。

最も基準が不明確なのが③である。
一般従業員と同水準ではクリアできないことは明らかであるが、どの程度高額にすればクリアできるといった一般的な基準は存在しない。
あくまで、①・②をクリアしていることを前提として、それにふさわしい高待遇といえるかどうか、という視点で検討するしかない。

以上から、次のようなものが会社にとってのコストとして考えられる。

会社が負うコスト

⒈管理監督者と認められるか否かをはっきりと判断できない
あらかじめ会社が人事戦略として行う判断は、トラブルになった後で裁判所が行う判断と同じではない
→トラブルになった際の結果の予測が難しく、戦略に組み込むこと自体にリスクがある

⒉リスクを避けようとすると、管理監督者の活躍と給与が見合わなくなる可能性がある
管理監督者性を否定されるリスクを低減するためには、全社的な経営に影響を与える非常に重要な職務に就かせ、その職務を十分に単独で遂行できる強力な権限と裁量を付与し、多額の報酬(賃金)を支払うこととなる
→その従業員が期待通りに活躍する場合には問題ない。しかし、うまくいかないときに会社から指示を出しにくい状況となる可能性があることから、高額な賃金と成果が釣り合わなくなる危険を背負うことになる

結局、管理監督者という制度は、人柄(上司や役員からの指示、監督がなくても全力を尽くすか)や能力が十二分に整っている従業員、要するに「会社の命運を託してもいい」と思える従業員に限って適用を検討すべきものといえる。

それでもなお導入にはコスト・リスクがつきまとうため、それを上回るメリットがあるか否かが、最初にして最重要な経営判断となろう。

いかがでしたか?小難しく話して申し訳ありません。
最後までお読みいただきありがとうございました!

こたつの中の人
弁護士です。労働法研究者(博士号持ち・大学に在籍中)でもあります。コンサルティング会社に社内弁護士として勤務したこともあり、企業の人事・労務に関する相談を2000件以上受けてきました。企業の気持ちを理解しつつ確かな理論を示して、会社の「雇う力」と働く人の「満足」を追求する「Quality of Work」向上を支援しています。
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