ジョブ型の基本 メリットと導入の仕方を法的に解説|労働法専門弁護士の経営労務

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労働法研究者・弁護士・草の民のこたつの中の人です。
働く人・雇う人に向けた記事を発信しています。

ふつうの企業でヒラ&管理職として働いた経験もあり、働く人の目線×企業経営の視点×専門・先端の知見を使って書いているので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

一時「ジョブ型雇用」という言葉が流行っていましたね(今も?)。
「日本はジョブ型じゃないけど海外はジョブ型」とか「日本もジョブ型にしなきゃダメ」みたいな意見が出ていたように思います。

会社を経営する立場からすると、「ジョブ型にすれば経営上メリットがある」ように見えていた部分も多かったのではないでしょうか。

この記事では、ジョブ型の基本から経営への活かし方などを、法の仕組みを踏まえて解説します。

こんな人に読んでほしい

  • 企業の人事担当者の方や経営者
  • ジョブ型の導入方法を知りたい
  • 自分の会社がジョブ型なのかどうか判断したい

※記事を更新した時点での一般的な内容・知見に基づいており、閲覧された時点によっては情報が古くなっている可能性があります。また、具体的な事情や状況も一人一人異なります。そのため、この記事は勉強や参考としてご覧いただき、実際に行動を起こされる際には弁護士等に具体的にご相談ください。
※この記事の内容は、著者個人の見解であり、著者が所属する(あるいは過去に所属していた)機関とは無関係です。

目次

ジョブ型とは?

「ジョブ型」とか「ジョブ型雇用」とか呼ばれるものに、法律上の明確な定義はありません
一般的には、おそらく、

従業員の職務内容を明確にして雇うこと

といった意味で使われていると思います。

こう聞くと、「今もそうだけど?」と感じる方もいるのではないでしょうか。
その感覚は実はとても正しいのですが、なぜ正しいかは後で説明するとして、日本の多くの会社(雇用)との違いを一言で説明します。

従業員一人が実行する職務の範囲が狭い!

こういうことだと思います。
※このあと、「職務」という用語を連発しますが、「仕事」と同じような意味で捉えてくださって構いません。

日本の場合、一つの企業で新卒から勤めていると、定年退職までに色々な職務を経験することが一般的です。
いわゆる「(部署)異動」がパッと思い浮かぶでしょうか。
それ以外にも、繁忙期のチームのヘルプに行ったり、隣のシマの仕事を「経験」を積むためにやってみたり、出張に行って普段とは違う仕事をしたり…実は「あなたの職務」はあいまいなのです。

ちょっと違う言い方をすると、「この職務しかやらない」という状態ではないということです。

しかし、ジョブ型は違います。

いったん職務(ジョブ)が決まれば、その職務しかやりません
というか、できません。
※出張はあると思いますが、それも職務の範囲内です。

なぜか。

ジョブ型は職務によって給料が決まっているから

という説明が一番しっくりくると思います。
つまり、違う職務をやってしまうと、お給料も変わってしまうのです。

しかも、

どの職務に就くかはあなたの能力・スキルなどで決まる

ので、ジョブ型においては、「あなたは別の職務をする資格がない」という設定になっているのです。
能力やスキルが合わないからですね。

能力やスキルをベースにして職務を組み立てるので、職務の範囲はどうしても狭くなります。
「いろんな職務をやるから」というお給料の決め方はできないわけです。

例えば、「事務」だったとしても、PCをメインに扱うのか(内容や使うソフトなども)、備品の管理なのか、英語スキルは必要か(必要であればどの程度か)、他部署や他のチームと連携しなければいけないか…などなど、職務の範囲を決めてしまうわけですね。


比較的細かく仕切られた職務に給料水準を割り当て、その職務にあった能力・スキルを持った人を配置(採用)する

というのがジョブ型の基本です。

今までの日本だと、ざっくりすら決まっていないことをきっちり決める、というイメージです。

日本のお給料決定は、「あなたは将来どんな職務をするかわからない。なので、あなたにいくら払います」というものです。
職務によってお給料が変わるのでは、お給料が下がる職務に異動させられないですよね。
拒否られます。

だから、「あなたの経験やスキル、協調性などでお給料が決まる」という仕組みになっているわけです。
そうすると、あなたがあなたである以上、職務内容が変わってもお給料は変わりません。

ジョブ型と経営上のメリット

ジョブ型は「その職務にいくらお給料を払う」と決めるものなので、会社にとっての価値が高いと考える職務に高いお給料、そうでもないものは低いお給料、という決め方ができます。
誰が実行してもその職務の給与水準は同じなので、経営戦略を給料に反映させやすい面があります。
※実際には同じ職務の中でもグレードがあることが多いと思います。そのため、能力やスキルの差によって同じ職務の中でも実際の給与額には差が出ることもあります。

また、ジョブ型は、例えは少し悪いですが、いわゆる「働かないおじさん」が出現しにくい仕組みともいえます。

今までの日本型だと、「あなた(従業員個人)」のお給料という形式なので、勤続年数が長くなるとその分お給料も高くなるというのが一般的です(その人は経験とともに成長していって、能力・技術・協調性のレベルが上がるから)。
そうすると、「お給料の高い人が重要ではない職務を行なっている」ということが起こりえます。
会社が考えるその職務の価値と、その職務を実際に行なっている人物のお給料とが釣り合っていないということです。

さらに、日本のような「自分の職務の範囲があいまい」な状況だと、社内での立場が上になればなるほど「なんでもできる」状況になります。
「あなたはこれをする人」というのが決まっていないので、自分の仕事は多かれ少なかれ誰かに決めてもらわなければなりません。
立場が下のうちは上司がその役目をしているわけです。

ですが、いざ立場が上になって指示を出す人が少なくなってくると、「誰にも何も言われない」という状態になりがちです。
結果、「何もしなくても許される」ような見た目になっている人も出てくるわけです。
※実際のところはもちろんわかりません。見えないところで成果を上げている人や、チャレンジしているけどうまくいかない人、周囲とのコミュニケーションがうまくいっていない人、など「本当は働いている人」の方が多いのではないかと思います。

対して、ジョブ型の場合、職務の範囲が明確なので「自分が何をやらなければならないか」がわかりやすいわけです。
誰かに指示されなくても自分で自分の仕事はわかっていますし、それが変わることもない(臨機応変を求められない)ので、「働かない」ということはむしろ難しいです。

ジョブ型が主流の欧米では、自分の職務が遂行できなければ「解雇」が待っています。
「わたしはこの職務が十分にできる」ということを示し続けなければいけないわけですね。
その延長として、能力・スキルが上がれば、より上級の(お給料の高い)職務に就かせてもらえて、昇給していくという仕組みです。

ここまでお読みいただいて、「ジョブ型は合理的な仕組みだ」と感じたなら、もしかするとジョブ型にあった経営方針や考えを持っているのかもしれません。

ジョブ型の導入方法

ジョブ型というのは法律上の制度ではありませんので、導入に特別な手続きは必要ありません。
手順としてはおおよそ、次のようになるでしょうか。

STEP
社内業務の棚おろし

社内にどのような業務がどの程度存在するかを確認する

STEP
業務を職務にまとめる

社内にある業務を、従業員一人が遂行可能な量を想定しながら、職務としてまとめる

STEP
職務を分析・評価して給与水準を決める

職務の会社にとっての価値を評価して、それに応じて給与水準を設定する

STEP
就業規則等の社内ルールを変更する

例えば、就業規則の異動に関する条文を修正したり、従業員個人と雇用契約書を交わし直したり

これだけでもかなり大変なように見えますが、実際にはもっと多くのことが必要でしょう。
例えば、従業員にジョブ型の導入を説明したり、現在の給与額から変わってしまう従業員から同意を得たりといったこともしなければなりません。

また、難関なのは、業務を整理して職務にまとめ、その価値を決める部分でしょう。
この作業は、「職務評価」と呼ばれたりします。

この作業は、今ある業務をもとに行うこととなりますが、当然、今後発生する作業も見越して職務をまとめなければなりません。
そのため、企画や営業といった社内の仕事を作る職務については比較的抽象的な職務内容となることもありますし、「管理職」という部下の具体的な仕事内容を決める職務もやはり必要です。

具体的にどのような職務をどのぐらい用意するかは、まさに会社の経営戦略と結びついた重要事項といえます。
いわゆる人事コンサルのサービスなどは、この辺りをアドバイスするのもひとつの役目なんでしょうね(知らんけど)。

よくある勘違い

ここまでの説明で、ちまたで言われているジョブ型とは少し違うなと思われた方もいるかもしれません。

よくある勘違い

①ジョブ型の方が解雇がしやすい
 解雇する際のルールはジョブ型でも同じ

②ジョブ型と今までの日本型とは全く違うもの
 根本的に相反するものではない

③ジョブ型の方が会社にとってのメリットが大きい
 考え方や経営方針次第

まず、解雇ですが、ジョブ型でも解雇に関するルールは同じです。
そのため、いくら職務が明確に定まっているとはいっても、「今の職務が十分にできないので即解雇する」ということまではなかなか認められないでしょう。
職務が十分遂行できるように、会社側としても、教育や指導などの対応をしなければなりません。

また、ジョブ型は欧米のスタイルでこれまでの日本のスタイルとは異質なものという認識もあるようです。
確かに、「職務を明確に従業員に示す」「職務と給与がつながっている」という点は大きな違いでしょう。

ただ、ジョブ型だったとしても抽象的な職務内容となることもありますし、職務ではなく従業員の能力などで給与を決める場合でも、現在の職務で発揮された能力をベースに評価するのであればジョブ型に近くなります。
そのため、ジョブ型だろうが今までの日本型だろうが、結局は、どのように制度を作り運用するかという点にかかっています。
極論すれば、ジョブ型というのは「自称ジョブ型」であって、大事なのは実際の中身だということです。

最後に、「ジョブ型の方が会社目線」という点は、確かにそういう面もあるでしょう。
「働かないおじさん」の例はその縮図かもしれません。

ただ、それも経営方針次第です。
例えば、職務と給与水準が連動していないことには、必要な職務に適切なタイミングで従業員を集めやすい(労働力の柔軟化)というメリットがあります。
また、一人の従業員がいろいろな職務を遂行できること(多能工)は、特に従業員数の少ない会社にとってはメリットが大きいでしょう。
従業員数がある程度いたとしても、最近は育児や介護との両立といったことも大きな関心となっており、そのようなライフイベントへの対応という意味でも優れた制度かもしれません。

こう考えてみると、ジョブ型かどうかというよりも、

経営方針を定めてそれと整合的に人事制度を作る

ことが何より大事ということになるのでしょう。
その結果できた人事制度を「ジョブ型」と呼ぶかどうかはもう気分の問題です。

どんな人事制度が会社にあっているのか、どんな人事制度なら働きたいか、考えてみるのも面白いかもしれません。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

こたつの中の人
弁護士です。労働法研究者(博士号持ち・大学に在籍中)でもあります。コンサルティング会社に社内弁護士として勤務したこともあり、企業の人事・労務に関する相談を2000件以上受けてきました。企業の気持ちを理解しつつ確かな理論を示して、会社の「雇う力」と働く人の「満足」を追求する「Quality of Work」向上を支援しています。
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