明日から来なくていい!勢いで伝えた解雇・急な解雇は有効になる?労働法専門弁護士の解説

記事を手に取っていただきありがとうございます!
労働法研究者・弁護士・草の民のこたつの中の人です。

「珍しい知恵が新しいワークキャリアのきっかけになる」をモットーに、働く人・雇う人に向けた記事を発信しています。

ふつうの企業でヒラ&管理職として働いた経験もあり、働く人の目線×企業経営の視点×専門・先端の知見を使って書いているので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

さて、この記事では、

明日からもう来なくていい!って従業員に言っちゃった場合にどうなるのか(働く人からすると、言われちゃったらどうなるか)を解説します。

解雇に関する問題なのですが、従業員から文句言われる?言われたら受け入れるだけ?てか、そもそもそんなことある?
と気になった方はぜひ読んでみてください!

※記事を更新した時点での一般的な内容・知見に基づいており、閲覧された時点によっては情報が古くなっている可能性があります。また、具体的な事情や状況も一人一人異なります。そのため、この記事は勉強や参考としてご覧いただき、実際に行動を起こされる際には弁護士等に具体的にご相談ください。
※この記事の内容は、著者個人の見解であり、著者が所属する(あるいは過去に所属していた)機関とは無関係です。

目次

急に解雇されることなんてある?

まず、「明日からもう来なくていい」なんて、そんな非常識な…と思った方に向けて。

今でもあります

もちろん、一言一句そのままというわけではありませんが、広い意味で「今日、すぐに、解雇したい」と雇う側が思うことはあるようですし、残念ながら、思うだけではなく実際に何らかのアクションをしてしまうこともあります。

口に出してしまったり、退職手続をとるように要求してしまったり…

なので、なぜ「非常識」と感じるのか・なぜ「残念ながら」なのか、知っておくことは大事だと思います。

雇う側としては言ってしまわないように、雇われる側としては言われたときに適切に対応できるように。
法律的な基本をおさえておきましょう。

解雇には事前の予告が必要(解雇予告)

急な解雇の一番の問題は、

解雇には事前予告が必要

と労働基準法(労基法)で決められていることです。

労基法の決まり(20条1項第1文)

会社(雇う側)は、労働者(従業員)を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告をしなければならない

なので、「今日解雇を伝えたから明日からもう従業員ではない」という扱いは、違反ではあります(ちょっと微妙な言い方になっている点は後で解説します)。

それどころか、30日も前に解雇を伝えなければなりません。

あなたを30日後に解雇するよ(30日後に辞めてもらうよ)

という言い方になるわけですね。

お金を払うと解雇予告の期間は短くなる(解雇予告手当)

30日前に解雇を予告しなければならないのは、

いきなり解雇されると労働者は生活に困る

からです。

蓄え(貯金など)があるとは限りませんし、次の仕事がすぐに見つかるわけでもありません。

そこで、30日前に伝えることで、職を失ってしまった後に備えて色々な行動・心構えをしてもらおうということです。
少なくとも30日間はまだ会社に勤められるわけですから、働いてお給料を獲得しつつ、準備していくということですね。

ということは…30日分のお給料と同じぐらいのお金がもらえればそれでOKでは!?

ということで、労基法では、事前の予告の代わりにお金を払うことでも構わないことになっています。

労基法の決まり(20条1項第2文)

解雇予告をしない会社は、従業員に対して、30日分の平均賃金を支払わなければならない

この決まりに沿って支払われるお金を、「解雇予告手当」と言います。
もらえる金額は「30日分の平均賃金」で、お給料そのものではないですが、だいたい1か月分の給与額だとイメージしておいてください。
※計算方法がわりと複雑なので、またの機会に。

とにかく、30日分の平均賃金を支払えば、30日前に予告する必要はありません。
つまり、解雇予告手当さえ払えば、「明日からこなくていい」もできるということです。

しかも、解雇予告と解雇予告手当は組み合わせることができます

労基法の決まり(20条2項)

解雇予告の日数は、平均賃金を支払った日数分、短縮することができる

30日前に予告するか、30日分の平均賃金を支払うかの2択ではないということですね。
例えば、解雇の15日前に予告して15日分の平均賃金を支払う、ということもできます。

解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要な場合

基本はここまで説明してきた通りなのですが、例外もあります。

労基法の決まり(20条1項ただし書)

①天災事変などやむを得ない事情で事業の継続が不可能となつた場合、あるいは、②労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合、には解雇予告や解雇予告手当の支払いは不要

①・②のいずれかに該当すれば解雇予告や解雇予告手当の支払いをしなくてもいいのですが、その場合、会社は労働基準監督署に申請して認定を受けなければなりません。

労働基準監督署という公の機関から、「解雇予告しなくていいですよ」と認めてもらわないとダメなんですね。

実際によく問題となるのは、②です。
「労働者の責に帰すべき事由」というのは難しい表現ですが、「労働者がとても悪いことをしたから解雇した」というイメージです。

単に仕事ができないみたいな理由ではなく、重大な犯罪をしたとか、ずーっと無断欠勤で探しても探しても音信不通とか、そんな感じです。
※どんな状況であれば解雇予告が不要となるかはケースバイケースです。安易な判断は避け、解雇の前に、専門家や労働基準監督署に相談・確認してみることが重要です。

①・②ともに例外ですが、一応、解雇予告も解雇予告手当の支払いもなく解雇すること(「即時解雇」と言います)もできるということです。

解雇予告もせず解雇予告手当も支払わずに解雇したら?

ここまでをまとめると、明日から来なくていい!がなぜ非常識なのか、なぜ残念なのかがわかります。

解雇予告や解雇予告手当の支払いという法律上の手続を行なっていないから

なんですね。きっと。

その前提には、「解雇予告しなくていいですよ」の状況にも当てはまっていない、ということもあります。

法律上の手続を果たしていないのに、解雇なんてするな!ということですね。

解雇予告手続の違反には罰則もありますし、最初の方で説明した通り、違法は違法なんです。

でも、実は、

解雇予告・解雇予告手当の支払いをしていない解雇でも、それだけでは解雇は無効にならない

というのが今の主流な考え方です。
裁判所も基本的にはこのような態度だと言われています。

は?どういうこと?と思われるかもしれません。
具体例を見てみましょう。

2023年6月9日、会社は従業員Aさんを本日で解雇すると、Aさん本人に伝えた。
Aさんは解雇される理由はないと思っており、解雇の無効を主張したい。

「無効」というのは、法律的な効力がないことを言います。
つまり、解雇が無効となれば、「解雇がなかったことと同じ=会社を辞めたことにならない」ということになります。

この具体例だと、会社は6月9日にAさんを解雇したことになります。
解雇予告は全く行なっていませんし、解雇予告手当も支払っていません。
この違反を理由に解雇が無効となるのであれば、Aさんにとってはそれが一番いいでしょう。
それだけで要望が叶います。

ですが、今の一応のルールは次のようなものです。

最高裁判所のスタンス

会社が、「どうしても、解雇予告も解雇予告手当の支払いもしないで解雇したい!」というのでない限り、解雇を通知したときから30日経つか、解雇予告手当を支払ったときのいずれかの時点で、解雇の効力が発生する

ちょっと??だと思いますが、ざっくり要約すると、

解雇予告違反の解雇は、即時解雇としては無効だけど、解雇予告の労基法のルールを後付けでクリアしたなら、クリアしたときに解雇の効力は認めてあげる

という感じです。

要は、会社としては、Aさんに解雇を伝えてから30日待つか、あとからやっぱり解雇予告手当を支払うかすれば、解雇そのものが無効にはならない。
ただし、労基法に違反しているので、労働基準監督署の指導や勧告の対象にはなりますし、ひどい場合には罰則の適用もありうる、ということです。

Aさんは、解雇を無効としたいのであれば、「会社は即時解雇にこだわっている」と主張するか、あるいは、「解雇には客観的で合理的な理由がない、社会一般からみて解雇はおかしい」という主張をする必要があります。
後者は、いわゆる「解雇権濫用法理」と呼ばれるもので、解雇の有効性を問題としたい場合に使う、最もスタンダードな手段です(労働契約法という法律で決まっています)。
解雇予告の手続に違反があった場合でも、結局、解雇権濫用法理を使って争うことになるんですね。

もちろん、即時解雇としての効果はないので、Aさんは、30日経つか解雇予告手当が支払われるまでは、そのまま会社で働き続けることができます。
Aさんが働けば、会社はお給料を支払わなければなりません。
そう考えると、解雇予告が実際にされた場合と変わらないっちゃ変わらない(気もする)。

でも、もやもやしません!?

解雇だー!って言われた会社に翌日また出勤して働くなんて…鋼のメンタルすぎて現実的ではない気がします。
そうすると、もう解雇はいいから(受け入れるから)解雇予告手当を支払ってほしい、と考えることもあるでしょう。
しかし!それはできないことになっています。

そんなこんなで、今はこんな感じに落ち着いています。

①解雇の無効を争いたい場合には、解雇権濫用法理を使う(その中で、会社が解雇予告の手続を取っていないことをひとつの事情として主張する)
②解雇の無効は争わない場合(もういいやと思って受け入れる)、解雇予告手当の請求をする

解雇は働く人にとって打撃の大きなものであり、トラブルも多いケースです。
いきなり解雇されると戸惑ったり、怒りが湧いてきたり、心の負担も大きいと思います。
ただ、この記事で解説したような複雑な問題もありますので、できるだけ早く弁護士や労働基準監督署・労働局といった行政機関に相談するようにしてください。

会社としては、「解雇がやむなし」と判断したとしても、解雇予告か解雇予告手当の支払いという基本的な手続をしっかり行うことが重要です。
手続違反だけで無効とはならないとしても、即時解雇に該当しない限り、結局は手続を踏んだのと同じ状況にはなるわけです。
違反がきっかけでトラブルに発展する可能性もありますし、わざわざ関係を悪化させることは得策ではないと思います。

いかがでしたか?
この記事が何かのきっかけになると嬉しいです。

こたつの中の人
弁護士です。労働法研究者(博士号持ち・大学に在籍中)でもあります。コンサルティング会社に社内弁護士として勤務したこともあり、企業の人事・労務に関する相談を2000件以上受けてきました。企業の気持ちを理解しつつ確かな理論を示して、会社の「雇う力」と働く人の「満足」を追求する「Quality of Work」向上を支援しています。
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